
人生の岐路
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ヨウジヤマモトといえば、日本のファッション業界におけるレジェンドの一人で、建築家にも多くの愛好家がいることでも知られている。ファッションの専門学校を優秀な成績で卒業しても就職できるかどうかという会社だ。そんなところを建築劣等生が有名建築家の教授から紹介してもらえるとあれば、周りの人間は黙っていない。特に先輩後輩は自分ごとじゃないから尚更だった。
「ヨウジヤマモトなら、決めるしかないだろ!今すぐ先生の前でお願いしろよ!」
正直、自分も“その名前”が出た瞬間すぐにでも「お願いします」と言いたかった。ただ、自分自身の人生とはいえ大学に入るのに一浪して面倒見てもらっていた今までのことを振り返ると、さすがに親の許可は取らないといけないなと思ったのだ。
「先生、数日だけください。すぐに回答をお伝えします。」
その夜は、下宿先ではなく電車に乗って実家に向かっていた。もちろん、両親の承諾をもらうためにだ。興奮と期待、そして不安と緊張が交互にやってくる複雑な気持ちのまま1時間ほど電車に揺られながら、久しぶりの実家に辿り着いた。
家に着いたのは11時過ぎくらいだったか、母親が夕飯の皿洗いをしていた。食卓の椅子に着いてしばらく話し始めるタイミングを見測りながら無駄に時間を費やした後、意を決して話し始めた。
「今日、設計の打ち上げで教授に“ファッションと建築とどっちがやりたいんだ”と聞かれて、“迷っています”と言ったのよ。そしたら”本気でファッションに進みたいならデザイナーを紹介する”といわれて。で、出てきた名前がファッションの専門学校を優秀に卒業しても入れるかどうかわからないような超有名なブランドだから、自分としてはそっちに進みたいと思っているのよ。」
「なんて言うところ?」
「ヨウジヤマモト」
「、、、知らないわ〜。でも、あんたの人生なんだから、やりたいんだったらやればいいんじゃない。」
「え、、、?建築に進まなくてもいいの?」
「あんたねー、建築学生なのに立派なミシン買って、毎日徹夜してミシン踏んで洋服作ってて、、。建築よりもよっぽど洋服の方が好きなんだって気づかない訳がないでしょ!」
その後、食卓に降りてきた父親も、一通り話を聞いたが反対は一切なかった。
ただ「一度きりの自分の人生だ、やるんだったら徹底的にやれ。建築に戻ろうとは考えるなよ。」そう言われただけだった。
Via Threads
※ TOP画像はAIツールを使用して作成されたイメージです。