人生を変えたゼミ面接

人生を変えたゼミ面接

“大学ゼミの面接 前編”

建築学科生でありながらファッションサークル活動に明け暮れるという生活も永遠には続かない。

建築士を目指す学生は、大学院を卒業すれば建築士の受験資格を取れることから、大学院に進学することがほとんどだった。そのため4年生になると大学院進学を前提に特定の先生のゼミに入り、卒論を書くことになる。特に人気の先生のゼミは倍率が高く、入るのにも面接や試験があった。当然自分にもその時期が近づいてくる。

明らかに劣等生だった自分は、それでも第一希望の意匠設計の教授のゼミを志望した。花形であり人気の先生だ。予想通り、志望人数が定員を大きく上回っていた。面接は志望者全員が同時に面接の部屋に入り、皆の前で今まで自分の作ってきた設計の図面を広げ、プレゼンするという内容だった。周りは設計演習の作品公表会でいつも皆の前で作品発表をしていたような超優秀な学生ばかり。ストレートに勝負しても到底勝ち目は0。彼らには持っていないもので勝負しないといけない。彼らにはなくて、自分だけが使えるものは、、、

ひっそりと一発逆転を狙った武器を懐に忍ばせ、自分のプレゼンの順番を待っていた。


“大学ゼミの面接 中編”

面接プレゼンの自分の番がやってきた。もう既に数名の優等生が精巧な模型写真とCGを使って綺麗なプレゼンを行ったあとだった。自分の模型と図面では到底彼らには勝てっこない。唯一同じ土俵で勝負できるものといえば、鉛筆の濃淡だけで図面を描いたドローイングだった。小さい頃から絵が得意だった自分は、鉛筆ドローイングだけは自信があった。面接のために修正を加え、自分でもなかなか良い出来栄えだった。 明らかにレベルの低い図面やCGと一緒に得意なドローイングが挟み込まれる。

しかし、これだけでは絵が上手いだけで、建築にはほとんど関係がない。

唯一の武器を出すべきか否か、、、プレゼンが終わりに近づくにつれて悩みも加速する。教授に怒られるかもしれない。その後皆から馬鹿にされるかもしれない。しかし、今まで本気でやってきたこと、唯一周りの優等生たちに自信を持って見せられることはこれしかない。心臓が張り裂けそうなほど緊張しながら、テーブルの上に重なった稚拙な自分の図面の上に置いて見せた。

自身のファッションショーの写真だった。


“大学ゼミの面接 後編”

「、、、実は、サークルでファッションショーなどを企画していまして、自分でも作品を作っていました。」

教授に説明をした後、一瞬の沈黙があった。が、自分としては怒号や罵倒を想定していたのだが、教授の反応は意外と冷静な、むしろ若干興味を持ってもらえたかのようだった。

「これは、全部お前が作ったのか。実は自分も昔アーティストの衣装をデザインしたことがある。だが、もうあのような仕事はしたくないな。」

空気は一気に和んだ。そのままの流れに任せ、一通り建築ではない作品の説明を続け、面接は意外と平和に終わった。

後日、面接の結果が知らされた。

不合格だった。


“心新たに”

不合格は予想通りだった。こんな自分が合格だったら、誰が真面目に授業に出るだろうか。落ちて当然だ。これをきっかけにファッションサークルからは距離を置き、遅くはなったが建築の勉強に専念しよう。これからは建築と一生向き合っていく人生なんだ。結果を真っ直ぐに受け止め、そう決意を新たにした。

その後鉄筋コンクリート構造のゼミ生への配属が決まった。

4年生になり、相変わらず意匠設計は自分の一番の楽しみだったこともあり、面接で落ちた教授の設計演習の授業にも参加した。気持ちを切り替えたとはいえ、3年間のギャップを埋めるのは並大抵のことではない。多少頑張ったところで成績が急に上がるわけでもない。平凡に設計演習をこなし、平凡以下の成績で授業を終え、そして夏休み前の打ち上げに参加することになった。希望の研究室の教授やその助手、そして先輩方も皆参加するということで緊張しながらもとても楽しみだった。

いつか近い将来努力して希望の研究室に入ってやる、そのための下準備だ。そんな野心もあったかもしれない。

やると決めたことは徹底的にやる。大学時代から20年以上経った今でも変わらない性格である。

 

Via Threads

 

※ TOP画像はAIツールを使用して作成されたイメージです。

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